【今週の1点】田渕俊夫「天山」
2013.02.15
「私は飛行機に乗るときには窓側に席を取り、いつでも小さなスケッチブックを取り出せるようにしています。この絵は中国西域のウルムチから北京に戻る機中から見た光景で、延々と連なる天山山脈を描いたものです。雪を頂いた山脈の麓をよく見ると一本の線のような道路が走っているのが分かりますが、その上を無数の線が覆いかぶさっているのが見えました。乾燥しきった砂漠地帯ですので、雪解け水やたまに降る雨は大地に浸み込むことなく一気に流れて地表に複雑な模様を作るのです。それは大自然が繰り返し描いてきた地上絵なのです」(文・田渕俊夫)
本作では群青の色彩で山を、白い糸のような精緻な線で雪解け道を表現しています。天山山脈の雄大さ、そして雪解けという悠久の自然のドラマを最大限に見せるため、画面上方一杯まで山を配し、山肌を中央部に配した画面構成を取っています。清く澄んだ色調が何ともいえない優美さを醸し出しており、まさに線描の名手ならでは優品と言えるでしょう。